戦時下、例えそれでもそこにある日常 〜劇場版: この世界の片隅に〜

京都では11月の全国ロードショー時には京都市内の中心部からちょっと離れたイオンシネマ京都桂川でしか上映がなくて、「観に行きたいけど、ちょっと遠いなぁ……」と思っていたんです、ずっと。

ところが「そろそろ観念してスケジュールに組み込まないとなぁ」と上映期間と時間を調べてると、かつて通っていた小学校(現在は廃校)にて立誠シネマプロジェクトとして映画上映をしてる上、その観たかった映画を上映中ということなので行ってきました、「この世界の片隅に」。

立誠シネマプロジェクト

先に立誠シネマプロジェクトなんですが、廃校した小学校の施設活用を主目的としたプロジェクト……、なんですかね? その辺の事情回りは詳しくないんですが、現存の校舎は1927年築・小学校の設立自体は明治政府の学校制度以前ってくらいすっごい古い小学校の普通の教室で映画上映してる、40席程度の1スクリーンミニシアターです。

建物自体が古いので正門をくぐった時点で「うわっ?!」って思うぐらいの古い小学校そのものというか、自分が通ってた時分とほとんど変わってないので自分としてはすごい懐かしい感じで感慨深かったです。ちなみに普通の教室(5年生時代に使ってた教室だったと記憶)を改装しての映画館なので「防音とか大丈夫かな?」って不安が映画始まるまで感じてましたけど、その辺は大丈夫でした。あと、映画館と言っても普通の映画館みたいな感じではなくて、座席が座椅子なんですよw

自分が「この世界の片隅に」を観た際には定員オーバーで通路に置かれた補助椅子でしたけどw この独特の雰囲気はそれはそれで趣きがあって良かったです。あとスピーカの近くだったので、前評判で聞いてた音響というか、空襲時のリアルな音声が期待してた以上に印象にも残りましたね。

この世界の片隅に

自分は補助椅子に座れましたけど、2回/日の上映で立ち見も出るくらいですごい人気・反響だなぁってのをまず感じました。あと、アニメ映画にも関わらず高年齢層の観客比率が結構高かったのも印象的でした。

作品については……、正直なところ、何を書けば良いんでしょうかね。blogを再開してから映画や読書の感想は「○○を観てきた(読んだ)」とタイトルを題してましたけど、すごい率直に今回のタイトルの通り戦時下、例えそれでもそこにある日常であり、映画のコピーにもなっている昭和20年、広島・呉。わたしはここで生きている。そのものでした。

主人公の北條(旧姓:浦野)すずが、ちょっと天然というか、ぽわっとした性格なのが味というか、戦時下という背景を持つ舞台の作品にも関わらず、印象が重くなりすぎない、作品に入りやすい設定が良いバランスで挿入されているのですが、凝った演出は一部を除いてほとんどなく、主人公の性格がオブラートになりつつも作品テーマをどストレートにぶつけてきた、とも言えるすごく実直な作品としか言いようがなくて、そういう点では感想を綴るのに困る作品とも言えます。

強いて言うと、凝った演出がほとんどない代わりに、前評判通り空襲時のリアルな音声はすごい印象的で、ここは恐らく劇場版を作る上で最もこだわりたかったであろう要素だったのではないか、と感じます。あと「この世界の片隅に」は久し振りにパンフレットを買った映画でもあるのですが、そのパンフレットでの監督へのインタビューでは「原作の余白」に込められた見えない風土性やその文脈を求めるところにすごく注力した旨が述べられていて、確かにその、当時の日常風景のリアルが丁寧に描かれていたことに気づきます。

原作自体がそういう扇状的なメッセージを訴える作品ではなかったということもあるでしょうが、北條すずの視点を中心に添えながらも一歩引いて「戦時下の日常風景」そのものが主体として描かれることによって、激情に近い強い感動ではなく、じわっと染みてくるような言葉にしようにも言葉にならない感動を生む作品、とも言えるでしょう。

自分が京都に住んでるものなので京都の情報しか入れてないのですが、冒頭通り昨年11月ロードショー時には郊外の1館のみの上映だったのが、1/28からはMOVIX京都、更に2月からはT・ジョイ京都での上映が始まり、遂に京都市内中心街や京都駅でも上映されることになりました。

ネタバレにならないように心がけたこともありますが、言葉にできなかった静かな感銘を実際に映画館で感じていただければ幸いです。どこの映画館でかは決めてませんが、多分、自分はもう一度「この世界の片隅に」を観に行くことになると思います。